2  名前:氷河期@ ID:AOHOLGND  2013/09/08 17:34

第一話 『鳥の卵』

つまらねぇなぁ…
そんな思いを胸に秘めながら岸本は今日も首都高を走っていた
(何か喉渇いたなぁ、PAにでも寄るかぁ…)
そう思った岸本は大井PAへと車を向かわせた
PAに着くと真っ先に青いボディが岸本の目に映った
「おぉ…」
思わず声を出してしまう程その車は美しい輝きを放っていた
夜なのに一人輝いている、他の車とは違う何かがある
そう感じた岸本はまじまじとその車を見つめていた
「何だ? 俺の車にゴミでもついてたか?」
「えっ」
突然声を掛けられ驚く岸本
振り返ると後ろには大きな体があった
「あ、いや…その…」
岸本は腰が引けていた
だが何かに気付いた
「社長!?」
「あ?」
岸本の突然の質問に屈強な男も唖然とする
「お前…もしかして俺のところの社員か?」
「あ、あぁ、はい! 岸本って言います!」
随分と張り切った自己紹介をしてしまった
「岸本ねぇ…聞いたことねぇなぁ…」
白けた顔で岸本を見下ろしていた
「あぁ、ははっ、そうですよね、あそこまで大きい会社のヒラ社員の名前なんて知らないですよね」
「ふっ、悪かったな…」
「あ、すいません! 変なこと言ってしまいまして…」
「何、気にするな。それにしてもお前は面白い野郎だな」
「は、はい! お褒めに頂き感謝します!」
「ふっ…」
岸本のことを鼻で笑っていた男、源田 篤史。
岸本が勤めるGNDホイールの社長だ。

「それで何だ、俺の車に興味でもあるのか?」
「あ、えぇと、その…カッコいいな…なんて思いまして」
「え、えぇと、ランサーエボリューションでしたっけ? この車」
「そうだ、ランサーエボリューション](テン) 通称エボ]だ」
[あ、やっぱり! 自分4WD車大好きなんですよ!」
「ほう…なら乗ってみるか? このエボ]に」
突然の質問に岸本は驚いた
「え、良いんですか!? でも自分車だし…」
再び源田は鼻で笑った
「ふっ、心配はいらない。今日は連れが一人いるからなぁ…」
噂をしているとトイレの方からスーツ姿の男が一人こちらへと歩いてきた
「あれぇ…鈴木ぃ、お前何で此処にいるんだよ?」
―鈴木、岸本の同僚だ。
「いや…社長が来いって言うからさ…」
「ふーん、そっか」
「鈴木、お前岸本の車運転してやってくれ」
源田が鈴木に言った
「えっ、何でですかー」
「岸本にエボ]を運転させる。お前は岸本の車で本社まで来い」
「なっ、頼むぜ鈴木ー 俺の車はあそこにある白のワゴンRだぞ」
「お、おぅ…社長からのお願いなら…」
岸本はこういう時だけは図々しかった
「ところで岸本、お前免許はマニュアルか?」
「あ、はい、一応マニュアルです」
「よーし、なら問題ねぇな。さ、乗れや」
「は、はい」
少々緊張した面持ちのまま岸本は車に乗り込んだ
シートベルトの装着音が車内に二回響いた
「このまま湾岸線を走って本社ビルまで頼むぜ」
「分かりました…」

―ブォォン、ブォォン
独特の低いエキゾーストがPAに響いた



戻る