151  名前:氷河期@ ID:HLHNONE  2013/03/06 23:15

第11話 『強引』

村田の目にR34のブレーキランプが映る
黒き猛牛、ブラックブルが長いUターンをインベタで綺麗に曲がっていく
「ははっ、すごい接地感すよ小田さん」
あまりの心地よさに米沢が大きく笑った
「こりゃすげぇや、お前が作ったエアロにしちゃ上出来だな」
地面のザラつきが車体に全て、且つ細かく伝わっていた
その感覚は助手席の小田ですら把握出来るレベルだった
「それにしてもあのZ32、なかなか食いついてきますな」
村田の操るZ32は離れることなく猛牛を追い続けていた
まるで、白馬のように

「じいや、分かったよ、このUターンを曲がるコツ」
村田が得意気な顔でじいやに話しかけた
「大きいUターンとはいえ、Uターンは直線を曲げただけに過ぎない」
「と、言いますと?」
じいやが問いかける
村田は軽くブレーキを踏み、ハンドルを右に切ってアクセルを踏み込んだ
「こうするのさ!」
Uターンの僅かな頂点、そこで村田は思い切りアクセルを踏み込んだ
先ほどのブレーキングは姿勢を調整するためのブレーキだった
わずかに出来る直線のラインで思い切り踏み込み、インベタのラインで走るブラックブルと並ぶ
それが村田の策略だった
「あとはこうやってアクセルを抜いて…」
村田がアクセルを抜いてハンドルを右に切った
「こうだ!」
Uターン脱出前の直線のラインで村田は再びアクセルを踏み込む
ZはUターン脱出直前のブラックブルと並んだ
「おぉ…」
じいやは感銘を受けていた
素人のぼっちゃまがここまで出来るとは、とでも思っていたのだろう
「ですがぼっちゃま、ブラックブルは直線でのパワーが持ち味、横羽からC1に行くまでの間で差をつけられますぞ」
それを聞いて村田の表情が少し険しくなった
「それなら…」
村田はアクセルを思い切り踏み込んだ
Zはブラックブルの前に少しずつ出てくる
「こうだっ」
そう言うと村田は少しだけ右へハンドルを切った

「おいおい、勘弁してくれよ、あの若造が寄せてくるぜ」
小田は怖がることもなく苦笑いをしていた
このようなことは慣れているのだろう
「しゃあないっすね、ちょっと速度落としますよ」
渋々と米沢がアクセルを抜いた
強引なやり方ではあるが村田のZがブラックブルの前へと出た
「まぁしゃあない、これも技術だ」
それを聞いて米沢は軽く舌打ちをした
「しかも粘りますねー、コイツ。前出す気はさらさら無いみたいっすよ」
村田はブラックブルの前に完全に貼り付いていた
白い壁がいつまでも立ちはだかるかと思われた
「おいおい、来たぜ」
小田がドアミラーを見つめながら言った

その青い光は誰の目にも鮮明に映えた


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