157  名前:氷河期@ ID:HLHNONE  2013/03/09 23:53

第12話 『豹変』

(―出たっ、ブルーバードッ!)
ドアミラーに青く輝く光が映り込む、ブルーバードに遭遇したようだ
村田がより一層アクセルを強く踏み込む
車体が少しずつ前へと出て行く。後ろに張り付いているブラックブルも同じように前へと出てくる。
おそらく米沢もブルーバードに気付いてアクセルを思い切り踏んでいるのだろう
(速い…確実に近付いてきている…)
ブルーバードが刻々と2台に近付いてくる
(嘘…だろ…)
青い光がZの右側を横切った
静かに、速く走る姿は非常に美しく見えた
「何でだ…何でなんだよッ!!」
村田は絶望していた。車を路肩に寄せ、村田はハンドルに思い切り頭を打ちつけた
「ぼっちゃま…申し訳ございません。私のセッティングが良くなかったあまり…」
じいやが申し訳なさそうに頭を下げた
絶望しているのは村田だけではなかったのだ
「くそっ、何であんなにも速く…!!」
村田がハンドルを思い切り殴る
無情にもクラクションの音だけが響いた
しばらく経ってじいやが口を開いた
「ぼっちゃま…少し気分転換されてはどうでしょうか? この近くにPAがあります。そちらで休憩されるのがよろしいかと」
「あぁ…そうだな」
村田の声には魂がこもっていなかった。死人の声と呼ぶのが相応しいだろう
意識が遠のいたまま村田はアクセルを踏んだ

「社長、すごいですねこのエンジン、軽く250超えましたよ」
岸本が缶コーヒー片手に喜んでいる
窓ガラスからはコンビニと車が何台か見えた
「ふっ、想像以上の出来だ。馬力を280から400に上げるだけでここまで変わるとはな」
「いやー、ほんと凄いですよ。あの白いZと大輔を軽々抜けたんですから、しかも直線で!」
岸本は相変わらず喜んでいた
「だが油断はするなよ、相手も同じドライバーだ。時の流れとともに力も強くなっていく、それだけは心に刻んどけ」
「は、はい…」
喜んでいた岸本を一撃で倒してしまった
さすが伝説のチューナーだけあって威圧感が凄い
「あ…あれ見てくださいよ、Rですよ、大輔の」
ゲンナリとしている岸本に黒いボディが見えた
「お、米沢か」
米沢は車をブルーバードの横に停め、二人の男が中から出てきた
「あれ、誰ですか? 大輔の隣にいる天パの人は―」
「アイツが小田だ、俺の弟子のような奴だ」
「へぇー、あれが小田さん」
岸本は大して驚いていなかった
小田には源田ほどの迫力も何も無かったからであろうか
二人がこちらへ来るのを見て、岸本と源田も車から降りた
「いやー久しぶりっすねー、源田さーん」
ドアの開閉音と同時に小田の甲高い声が響く
「おう、久しぶりだな」
「それより源田さん見てくださいよこれ、俺が仕上げたんすよこのエアロ」
自慢気にブラックブルにつけたエアロを紹介していた
岸本と米沢は苦笑いしか出来なかった
「お、君が岸本君かー、話は聞いているよ、すごいんだってねー」
「あ、はい、どうも」
小田は握手を求めていたようだが相手にされていなかった
だが小田は大して気にしていなかったようだ
「おい、大輔も油断したら最速の座を奪われちゃうんじゃないのかー?」
今度は米沢の肩をつつき始めた。もう米沢は慣れているようだった
不意に岸本がPAの入口を指差した
「あれ、あのZって…」

それぞれの存在に、それぞれの人達が引き寄せられていく―


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