170  名前:氷河期@ ID:HLHNONE  2013/03/16 00:29

第14話 『より速く』

GNDホイール本社の隣に建っている小さなガレージに青い鳥の姿は無い
そこには白きZがあった
「ほう…立派なガレージだな… 現役の頃より工具等は栄えてるじゃないか」
じいやがガレージを見回して言った
「いえいえ、現役の頃よりちょっと多いくらいですよ。ほとんど新調しただけであまり種類は変わってないですからね」
源田がスパナを握った
「それにしても立派なエンジンですね、これは。さすが、時間をかけただけありますよ」
源田がZのエンジンを見つめて言った
「なに、お前に比べたらまだまだだよ。現にお前のブルーバードに大差をつけられてしまったじゃないか」
「なるほど、このエンジン、加速は良いけれどもパワーが弱い…」
そう言って源田がZのエンジンに手をつけ始めた

「へぇ、大手カジノ会社『KING』の息子ねぇ…」
「あぁ、はい。と言っても自分は何もしてないんですけどね…」
村田と岸本はファミリーレストランで呑気に話していた
コーヒーから湧く白い湯気が二人を分ける
「それにしても俺に勝たなきゃサーキットの世界で生きていけないなんて、とんでもないことを言ったもんだな」
岸本がコーヒーを一口すすって笑った
村田は恥ずかしそうに下を向いていた
「いやぁ、岸本さんが最速だと聞いたもんで。首都高というステージであなたに勝たないと、サーキットの世界でも勝てない気がして…」
「ふっ、俺はあの世界に足を踏み込んでまだ二週間くらいだぜ? そんなど素人に勝っても意味ねぇよ」
「それでも良いんですよ…あなたに勝てればそれで…」
村田のやや真剣な眼差しに岸本は軽く動揺した
社長もこんな風に動揺したんだろう、岸本は自分に言い聞かせた
「俺よりも大輔に勝った方が良いんじゃないか? アイツが首都高最速だぜ?」
「うぅん…一度は米沢さんの前に出たんですよ。でも、あの抜き方は正しかったのか、俺には分からないです」
また村田が下を向いてしまった
「正しくない抜き方? 何だそれ」
岸本が興味深そうに村田を見つめる
村田は顔を上げて語り始めた
「車体を斜めにして米沢さんのRに向けたんですよ、それでアクセルを思い切り踏み込んで前へ出ようと…」
その話を聞いて岸本は軽く目を細めた
「むぅ…それは正しいとは言えないな、だけど良い勉強になったんじゃないか?」
「良い勉強?」
「より速く走るために、何が不要で何が必要なのか…さ」
岸本はカップの中のコーヒーを飲み干した

「社長、仕上がったんですか?」
岸本の声が小さなガレージにこだまする
「ふっ、完璧だ。もしかしたらお前のランエボより速いかもなぁ…このZは」
そう言って源田はZのボンネットを勢いよく閉めた
不意に村田が口を開いた
「岸本さん…今夜、首都高でどうです?」


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