182  名前:氷河期@ ID:HLHNONE  2013/03/20 21:33

第16話 『勝つのは俺』

「おぉ、すげぇすげぇ。さすが社長のチューンを受けただけはありますね」
Zがブルーバードの横を勢いよく通り過ぎた
Zのテールランプから漏れる赤い光がブルーバードに反射する
次にZはブラックブルへと迫る。4つの円が村田にはとても大きく見えた
(来たか…Z)
Zがブラックブルの右側から抜かそうとしたその瞬間、米沢は右へとハンドルを切った
「この前の借りを返すぜ、Z」
「なっ…くそっ」
やや減速してしまったZの横にブルーバードが並んだ
「米沢も速くなりましたね、自分でまたエンジンを組んだのでしょうか」
「さぁな、だがたしかに速くなっている」
ブラックブルはより一層速くなっていた
ブルーバードとZに敗北したあの時とは…違う
(俺だって負けてられねぇんだよ…これ以上の負けは俺のプライドが許さねぇ!)
米沢がギアを6速へと上げた
ブラックブルがZを突き放していく、だがブルーバードは続いた
「勝つのは…俺だァ!!」
村田が勢いよくギアを5速に上げた
Zのマフラーにバックファイヤーが吹き出す
バチンと、音を響かせZがブラックブルへと迫る
「ははは…おもしれぇ、そうこなくっちゃなぁ、Zォ!!」
米沢が大きく笑った
ブラックブルを中心に、Z、ブルーバードが横一列に並ぶ
「並んだ…今全ての車が同じ速度で走っている…」
村田があまりの美しさに感動した
時に一般車を避けることもあるが、この美しいラインが崩れることは無かった
「ははっ、すげぇぜお前ら。これにはさすがの俺も感動だっ」
源田が腕組みをしながら甲高く笑った
「見ていてください社長…このバトル俺が勝ちますッ!!」
「ふっ、見せてみろ、そして体感させてみせろ、最高の瞬間を!!」
3台が並ぶ中、ブルーバードが少しずつ前へと押し出されてきた
岸本の勝利への気持ちがこの車を押しているのだろう
(さすがだぜ岸本…だが、勝つのは俺だ!)
負けじとブラックブルが前へと押し出されてくる
ブラックブルが少し前へと出ているブルーバードと並ぶ
「俺はこんなところで負けねぇ…この高い壁を越えて俺は生きるッ!! 俺が…勝つ!!」
村田のZも続いて押し出されてきた
強い気持ちを持つ三人が再び横一列に並ぶ
3台の車は300km/hに近い速度で走っていた
このまま走り続ければ、間違いなくエンジンブローを起こすであろう
だがそれでも構わなかった。一瞬だけでも最高、それだけで満足だった

並んで走る三人の目に車線を二つ支配する2台のトラックが見えた
「面白くなってきたじゃねぇか、残った一車線を制するのは最も速い一人だ。それは米沢なのか、村田なのか、それとも岸本、お前なのか」
「社長、俺が…俺が前に出ますよ!」
岸本が更にアクセルを踏み込んだ
だが他の二人も負けてはいなかった
勝者は誰なのか、知る由もなかった

―逃げるな、壁から


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