183  名前:氷河期@ ID:HLHNONE  2013/03/20 21:55

第17話 『未来を生きる』

3台が凄い勢いで2台のトラックへと迫る
「ぐぅ…いけるか?」
村田が歯を食いしばった。全身全霊の力を込めてアクセルを踏んだ
「じいや…俺は…俺は…」
村田が突然震え出した
ここで失敗したら死んでしまうと分かっていたのだろう
「構いませんよぼっちゃま、あなたは未来に生きるべき人間です」
「じいや…」
村田がアクセルから足を離した
Zがブルーバード、ブラックブルから離れていく
「勝てなかった、俺は。この瞬間よりも未来に生きる俺を取ってしまった」
村田が俯いてしまった
だがじいやはそれを慰めの目で見つめていた
「いいえ、この超高速の世界に生きようとしたぼっちゃまの覚悟が知れただけでじいやは十分です」
じいやがの目から涙が溢れ出した

「Zは降りた…か、このバトルの勝者は俺と大輔に絞られたってことですね」
全力でアクセルを踏み込む米沢と岸本、互いに譲り合う様子は無かった
トラックは目前、500mもない所まで迫っていた
その瞬間だった
ブルーバードのボンネットから白い煙が立ち込めてきた
「嘘だろ…」
エンジンブローだった
ブルーバードがみるみるうちに減速していく
「ふっ、こんなこともあるさ。安心しろ、エンジンは俺が直しておいてやる」
源田はもう慣れているようだった
岸本も突然の事態に苦笑いを浮かべていた
そして、2台のトラックの横をブラックブルが通り過ぎた
(俺が…勝ったのか)
米沢は何とも言えない気持ちになっていた
ブロー、死への恐怖という踏み台を使って得た勝利は米沢にとって快くなかったのだろう
(これで良かったのか? 俺は納得できねぇぞ岸本)
ブラックブルは一人で行ってしまった
「とりあえず路肩にコイツを停めろ、俺がレッカーを呼ぶ」
「は、はい…」
浮かれない表情をしたまま、岸本はブルーバードを路肩へと停めた
今度は村田のZが過ぎ去っていった
「はぁ…」
「ったく、いつまで落ち込んでんだよ」
岸本はハンドルを握ったまま下を向いてしまった
その横で無慈悲な携帯の発信音が鳴り響く
「あー、もしもし、小田か? ブローしちまったんだ、レッカー頼むぜ」


―敗北を恐れては、前進出来ない


推奨BGM(YouTubeにとびます)
In Your Dream


戻る