206  名前:氷河期@ ID:HLHNONE  2013/03/28 23:44
第19話 『クラッシャー』

ある昼休み、岸本がいつものガレージでブルーバードをチューンしていると源田が奇妙な話題を持ってやって来た
「おう岸本知ってるか? 最近噂の赤いR32」
「あ、何か少しだけ聞いたことあります」
情報弱者の岸本ですら少し知っているというほど赤いR32は首都高の走り屋の間で話題になっていた
「どうやらそのR32、自分以外のGT-Rを意図的にクラッシュさせまくってるらしいぞ」
クラッシュとは車同士が衝突することを指す
「え、何なんですかそのRは!?」
岸本が驚愕としている
おそらく、GT-R乗りである米沢のことが不安であったのだろう
「一応米沢には伝えてあるから安心しろ、だがアイツのことだ間違いなくその赤いRを潰しに行くだろうな」
「で、でしょうね…」
米沢は高校時代不良をやっていただけあって、売られた喧嘩は買う主義であった
またそれが非道な行為であれば米沢は許さないだろう
「ですが大丈夫なんでしょうかね…」
岸本が不安そうな顔をしている
いくら米沢が強いとはいえ、今回ばかりは不安を隠せないようだった
「ふっ…アイツのことだ。死ぬわけねぇだろ」
「で…ですよね、ハハ」
源田の自信に満ちた表情に岸本は思わず笑ってしまった

「おーう米沢、知ってるか、赤いR32のこと」
ガレージでブラックブルをチューンする米沢の元へ小田がやってきた
「さっき源田さんから電話来ましたよ。くれぐれも死ぬなと言ってました」
「止めはしないんか、源田さん」
小田がケラケラと笑っていた
「俺が死ぬと思ってるんすか? 小田さん」
「そうだったな、おめぇは不死身だったな」
二人が高らかに笑っていた
ガレージで作業をしている他の社員は集中しているのか目もくれなかった
「あ、そうそう、コイツの為にターボ作ってやったぜ」
そう言って小田は複雑な機械の塊を米沢に差し出した
「おぉ、すっげぇ!! あざっす、小田さん!!」
「ふん、こんくらい朝飯前よ。あ、でもおめぇのRには自分で取り付けろよ」
「は、はぁ…」
小田はやはり不器用であった
実際このターボも2ヶ月かけてやっと完成した物である

その夜、赤いR32が首都高へと君臨した
一般車の中に紛れて走っているR乗りの雰囲気組もその赤き姿を見ると失速していった
そして
―ドンッ
何も知らない一般車のGT-Rを思い切りスピンさせた
慣れているのか軽くリアにぶつけるだけで綺麗に相手はスピンしていった

―どこだ、どこにいる…ブラックブルはァ!!


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