3  名前:氷河期@ ID:AOHOLGND  2013/09/08 17:50

第2話 『猛牛』

青い鳥は遂に首都高へと羽ばたいた、黄金の卵を抱えて。
2速、3速と順調にギアを上げていく岸本
だがその表情には緊張の二文字が刻まれていた
「何だ、怖いか? この速さが」
源田が岸本に問う
「怖いです… 正直な話、3速からギア上げられないですよ…」
「何、気にするなド素人が3速まで上げただけでも立派だ」
源田が澄ました顔で答えた
メーターに目をやると、すでに200km/hを超えてることに気付いた
「うわぁ…時速200km超えてる…」
「まだ大したことねぇだろ? ほらレブってるぞ、早く4速に上げろ」
源田が平然とした表情で言った
「は、はい…」
岸本は恐る恐るギアを上げた
ギアチェンジの衝撃が車内に響く
「他の一般車両がまるでパイロンみたいですよ…恐ろしい…」
「パイロン避けるくらい簡単だろ?」
「…」
岸本は何も言えなかった
集中しているのか自信が無いのか、ハッキリとしていなかった
―!?
岸本は後ろから迫る高速の光に気がついた
「社長! 何か来ますよ、すっげぇ速いのが!!」
「出たな…ブラックブル」
源田はまた澄ました顔で答えた
何もかも分かっているような顔をしていた
「ブラックブル!? 何ですかそれ?」
「まぁ走ってみろ、答えは走りの中にある」
そうしているうちにブラックブルなるものがエボⅩを追い越した
黒く輝くボディは岸本の目にも鮮明に映った
「あれがブラックブル…」

―ブォォン
「スカイラインGT-R R34、ブラックブル…首都高最速の車両だ、岸本」
ブラックブルを見つめる岸本の目は輝いていた。だが違う何かもその瞳に秘められていた
「ブラックブル…すげぇ…」
岸本は小声で呟いた。だが源田の耳にも、その囁きはたしかに届いていた
「追えるか?」
「えぇ、追えますよ、俺。このエボⅩなら…行けます!」
「ふっ…やってみろ…」
(一瞬でコイツの目が変わった、並の輩とは何か違うものを持っているのか…!?)
源田はハッキリとは分からない何か
ギアチェンジの衝撃が車内に響く
腰が抜けていた岸本が軽々しくギアを5速に上げたのだった
「さっきとはまるで違うな…」
気付くとスピードは250km/hを上回っていた
だが岸本はそれに気付かない
GT-R独特の赤い4つのテールランプが岸本の目に近付いてきた
「追いついている、いける!」
「油断するな、相手はまだ本気じゃねぇぞ」
「いや、いけま…」
岸本の口が途中で止まった
徐々に離されていることに気付いたのである
「ふっ、初心者と上級者の違いってところか。それともマシンの問題か?」
「…」
岸本は答えることが出来なかった
自分の弱さを自覚していたからだ
「アイツ大黒PAに入るみたいだな、俺達も入るぞ」
「は、はい…」
また弱腰の岸本に戻っていた
岸本はエボⅩをブラックブルの横に停めた
「岸本、一度走った奴に挨拶くらいしておくのはマナーだ。意味、分かるよな?」
「はぁ、一応分かりました」
「ならブラックブルのドライバーが戻ってきたら挨拶くらいしておくんだな」
(何してんだろうな、俺。こんなことしたって何の意味も無い。さっさと降りさせてもらいたもんだ、この世界から)
岸本の頭はすっかり冷めていた
「岸本、お前勝ちたいと思ったことはあるか? 勝負を通して何か分かち合えたことはあるか?」
(勝ちたい…ね、そういや俺は勝ちなんて拾ったこと無かったなぁ)
何か思い詰める岸本に源田は何も言わなかった
(そもそも俺は勝負をしていなかった…負けるのが怖くて勝負からずっと逃げ出していた。学生の時から俺はそうだったな…
だからこそ勝負を通じて何か見えたこともない。此処で走ることは、俺に何か意味をもたらしてくれるのか?)
「たしかに、今まで俺は勝ちもしていなかったですし、勝負すらもしてきませんでした。けれど、此処で勝負することで何か見えてくるかもしれない、さっきの社長の言葉で何か目が覚めた気がします」
「ほう…」
「俺、此処で戦います! 俺が勝てる唯一の場所かもしれないんです!」
「ククク…弱者らしい回答ではあるが興味深い、俺の目は間違ってなかったようだな」
「えっ」
「いや、何でもない。ほら行ってこいよ、ブラックブルに向かってるアイツがドライバーだ」
髪の毛をツンツンに逆立てた男を指差す
その男を見て岸本は驚愕した
「あぁ!? アイツは!?」


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