219  名前:氷河期@ ID:AOHOLGND  2013/04/04 00:07
第21話 『疲弊』

ブラックブルが車を右に寄せてコーナーを曲がっていく
(走り方は岸本と同じ…だが、コイツは4WDじゃねぇ、加速は当然ながら劣る。ならコイツなりにアレンジすりゃ良い!)
インベタでコーナーを駆け抜ていく
(新環状は狭い…少し早めにアウトに出ねぇとぶつけちまうな)
米沢はこう考えていた
まず限界までインを走る
そしてコーナーの出口手前でアウトへと膨らむ
そうすることでアウトインアウトに極力近い走りをしようとしていた
コーナーの出口が迫る。考えていた通り、少し早めにアウトへとブラックブルは飛び出した
後ろには赤色。前には出たものの一向に離れる気配は無い
(くそっ…やっと前に出れただけか)
二台は一列に並んで湾岸線へと入った
赤のR32は後ろをずっと走っている、右車線が空いているが依然としてブラックブルの後ろに貼り付いたままだった
(後ろに貼り付かれると怖ぇな…いつ攻撃してくるか分からねぇ)
米沢の額は冷や汗で濡れていた
後ろに貼り付かれるということは、いつ攻撃されてもおかしくないということである
ましてや、一切ガードせずに弱点を晒しているということでもある

ほとんどオールクリアに近い深夜の湾岸線を二台のRが駆け抜けていく
(いつだ…いつになったらコイツは離れる!?)
精神的に限界が来ているようだった
だが首都高ランナーとしてのプライドは捨てない、不思議な男である
「あ…」
米沢が思わず声を漏らした
離れていく。ヘッドライトの光、いや、赤いR32が離れていく
「終わった…のか?」
米沢の顔に生気は無かった
完全に疲れきった顔をしている
だが腑に落ちないようだった
(アイツは速い…間違いなく、俺より…)
赤いR32は明らかに余裕があった
スピードにおいても、精神的にも
(とりあえず小田さんに報告しとくか…)
そう思ってハンドル片手にチノパンのポケットからiPhoneを取り出す
数秒後、疲れて切っている米沢とは反対に、いつもの陽気な声で小田が電話に出た
「小田さん…出ましたよ、あの赤いR32」
「おぉ、本当か!? お前が無事なら俺も乗っときゃ良かったぜ、まったく」
「乗らない方が良かったっすよ、もう精神的にバテバテっすから、俺」
「そうか、大変だったな。ゆっくり休めよ」
さっきまでの陽気な口調ではなく、深刻な口調で小田は話していた
その声を聞いて安心したのか、反射的に電話を切ってしまった
(とりあえず家帰るか…)

―もう一回リハーサルの必要、あるかな


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