228  名前:氷河期@ ID:AOHOLGND  2013/04/08 23:40
第22話 『青と赤』

「はぁ…」
先ほどのバトルで疲れきった米沢が着替えもせずにベッドへ倒れ込む
(どうせ明日は休みだ…このまま寝てしまえ)
3秒もせずに米沢は眠りについてしまった
命の危機と隣り合わせになったのだから無理は無いだろう

「おい岸本、せっかくボンネットをカーボンに替えたんだから今日くらい走ってみようや」
残業の時間帯、オフィスで残業をこなしている岸本に源田が声をかける
熱心に資料を読んだり、キーボードを打ち込んだり、と社長にとっては嬉しい姿であっただろう
が、この社長は普通ではなかった
「おいおい、残業なんて良いからさっさと行こうぜ」
「え、良いんすか!?」
岸本が読んでいた資料を机に置く
この動作の切り替えは異常なまでに早かった
「昼間あんまりやることねぇんだろ? そんなの来週またやりゃ良いんだから行こうぜ」
「あぁ、はい」
そう言って二人はガレージへと向かう
そこには一味違うブルーバードがあった
ボンネットが黒い。源田が言っていたようにボンネットがカーボンに変わっていたのだった
「ほら、見てみろよこの軽さ、指一本で持ち上がっちゃうぜ」
源田が岸本に見せびらかす
「おぉ、やっぱすごいですね。持ってみた時も軽いと思ったんですけど、ほんと軽いんですね!」
「さ、ここで立ち話してても時間の無駄だ、さっさとどんだけ変わったか実感しようや」
二人が車に乗り込む
いつものようにキーを回し、ペダルを踏み込んでブルーバードは飛び立った

「そういやさっき小田から聞いた話だが、どうやらあの赤いR32が出たらしいぜ」
「へぇ、出たんですか」
岸本はあまり興味が無さそうだった
やはり自分はターゲットではないと分かっていると興味が沸かないのだろう
「その赤いR32…米沢とバトルしたらしいぜ」
それを聞いて岸本が驚愕した
親友が危険な状況になった知れば驚くのも無理は無い
「だ、大輔は…無事ですよね?」
「安心しろ。無事だ」
「そ、それなら…まぁ…」
岸本の肩から力が抜けた
「もしかしたら…まだいるかもな」
今、岸本が走っているのは横羽線である
先ほどブラックブルとR32がバトルした湾岸線と繋がっている
つまり、この横羽線にいることも充分考えられるというわけだ
「それにしても静かですね…まるで、何かに怯えているような」
「まぁ、例のR32が事故を意図的に起こしまくってるからなぁ、そりゃ使いたくも無くなるだろ」
先ほど米沢が走っていた新環状、湾岸と同じく横羽線も静寂な空気に包まれていた
岸本の視界にはやはり1、2台の車しかなかった
「ふっ…何か嫌な感じがするぜ。さっさと有害な分子は排除しとかねぇとなぁ」
「ですが、ナンバーすら抑えられていなんですよね? それじゃ検挙は難しいんじゃ…」
「何言ってんだ、俺らがナンバー抑えるんだろうが」
「えっ」
強気な源田と何が何だかよく分からない岸本
相変わらず迷コンビである
そんな時、凄い速さで光が迫ってきた
おそらく―
「おい、何か来るぜ」
「ですね、もしかしたら―」
ブルーバードの右側を赤色が猛スピードで駆け抜ける
赤いR32だ。
「出た…!」
一瞬で車内の空気が緊張する
「追え!岸本!」
「分かってますよ!」
気付いた時にはすでにR32はブルーバードの100mほど前にいた
ギアを4速へと上げ、アクセルを思い切り踏み込む
「ふっ…やっぱ加速が違うな」
カーボンボンネットを装着した為か、加速が非常に伸びる
ブルーバードは徐々にR32へと近付いていく
「社長、そろそろナンバー見えますよ!」
「OK、OK、分かってるって」
ブルーバードはR32から20mも無いところにまで迫っていた
やや老いている源田でもナンバーくらいは把握出来るだろう
「ええと、横浜500の、にの…」
作業着の胸ポケットから手帳とペンを取り出しナンバーを写し始める
その時だった、赤いR32がもの凄い速さで再び走り出した
「バ…バカな!? この速さから更に加速だとッ!?」
さすがの源田もこれには驚愕していた
ブルーバードは時速250km/hで走っている、それなのにR32はまた加速している
とても理解出来ない状況であっただろう
「ちょ、社長! ナンバーは書けたんですか!?」
源田が手帳を岸本に見せつける
そこには、汚い字で『横浜500 に』とだけ書かれていた

―ブルーバード…この程度か


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