233  名前:氷河期@ ID:AOHOLGND  2013/04/14 22:53
第23話 『走りへのプライド』

「ちょ、社長! ダメじゃないですか!」
源田の汚い字を見て岸本が言う
肝心なナンバーが書かれていなかったのだ
「仕方ないだろ、書こうと思ったらありえねぇ加速で行っちまったからな」
「くっ…たしかに、あの加速には驚きました。こっちは5速で限界まで回しているように…」
「ふっ、上には上がいるもんだな、面白い」
興味を抱く源田に対して岸本は悔しそうな表情をしていた
現在首都高でトップを争う自分よりも上の存在がいたことが岸本のプライドを刺激したのだろう
「まだ…伸ばせますよね?」
「チューニングにゴールは無いぜ」
それを聞くと岸本はホッとため息を吐いた

翌日、休日にも関わらず米沢は小田の自宅兼事務所を訪れていた
チャイムの音に反応して、小田が出てきた
「ったく、休みくらいゆっくり寝かせてくれや」
「あぁ、すんません。ですが、ブラックブルをもっと伸ばしたくて…」
米沢が適当に頭を下げた
「ほう…ならエンジンの調整ともう一つ、アレをやってみるか…」
小田には何か策があるようだった
「アレ…? アレって何すか?」
「とりあえずガレージに車入れろ、話はそれからだ」
そう言われると米沢はブラックブルを仕事場のガレージに入れた
「で、何をするんすか?」
「聞いて驚くなよ、全装カーボンだッ!!」
小田の奇策に米沢は驚愕した
ブルーバードのボンネットをカーボンに変えて軽量化したように、ブラックブルもカーボンを用いて軽量化しようと言うのだ
「そ、それってすごい時間が…」
「安心しろ! 源田さんの協力を得ている!」
どうやら源田に協力を呼びかけたようだ
「そ、それなら安心っすね…」
不安な表情のまま米沢が言った
「せっかく源田さんの協力を得たんだから、例の赤いR32撃墜してこいよ!」
「そうでした…ね」
米沢はR32とのバトルには勝ったものの、勝負には負けていた
精神的にも追い詰められ、手を抜かれて前を走っていただけだった
「俺は逃げてました、あの化物から。コイツには勝てない、速く走れない、そうやって逃げ道を必死で模索してました」
突然の語りに小田の目が点になる
それを目にも取らず、米沢は話し続けた
「俺は一人で抱え込んでました、でもさっきの小田さんの話で痛感しましたよ、俺は一人じゃないって。色んな人に支えられて首都高というステージに立っているということを!」
「その通りだバカ野郎!」
小田の迫力のない一喝が入った
「俺、ぶっ潰しますよ、あのふざけた野郎を、俺のプライドにかけて!」
「おっしゃ、そうと決まればボディを仕上げちまうぞ!」
「うっす!」
走り屋としてのプライドに再び火が着いたようだった
そして、一週間という期間を経て、ブラックブルの新しいボディ、600馬力エンジンを完成させる―

―待っているよ、ブラックブル


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