296  名前:氷河期@ ID:AOHOLGND  2013/05/03 23:40
第28話 『因果応報』

(これだッ…小田さんが作ったターボ!)
ブラックブルのハンドルについていた小さなボタン、それはターボをONにする為のボタンだった
迷うことなく米沢はボタンを押した
(ONにはしたが、一気に加速が伸びるまでおそらくラグある…頼む、加速してくれ!)
そんな思いとは裏腹に、林のR32はブラックブルに迫っていた
衝突までおそらく3秒、まだ2秒しか経っていないがとても時間が長く感じられた
「ククク…終わりだ、米沢」
衝突までおそらく2秒、R32は減速を一切行わない
ブラックブルはコーナー出口付近にいる
加速が失敗すれば両者ともクラッシュだ
(頼む、ブラックブル…)
米沢はとにかく祈った
ブラックブルを、自分を信じて
―!
米沢が何かを感じ取った
「来た! 行けッ、ブラックブルッ!!」
米沢が感じ取ったのは加速への兆しだった
ブラックブルが一気に加速する、まるで点と点を移動するように
そして、ブラックブルはコーナーを…抜けた
「何だあの動きは! ふざけ…」
大きな破壊音が静寂な道路に響いた
クラッシャーが、クラッシュしたのである
R32のフロントは原型を留めていない、林も生きているかどうか定かではない
クラッシュする様子を米沢はバックミラー越しに確認していた
(これが因果応報…罪を犯した者の宿命とでも言うべきか)
情けをかける気は一切無さそうであった
(とりあえず管理局に電話して救急車くらいは呼んどいてやるか…)
ブラックブルを脇へ止め、米沢は携帯を取り出した

ODA SPEEDのガレージに一台の車が入ってくる
ブラックブルだ
「小田さんの作ってくれたターボのおかげで助かりましたよ、まったく」
米沢は何とも言えない苦笑いをしていた
「おっ、そうか、それは良かったなぁ、ハッハッハッ」
小田は何があったのかまるで察せていなかった
だが、このいつもの小田の態度が米沢に安心感を与えていることは否定できない
「あのターボ凄かったっすよ、結構伸びるんすね加速」
「あのターボ…実を言うと源田さんが作ったヤツなんだ、わりぃな騙しちまって」
小田は後頭部を掻きむしっていた
「へへっ、そんなの最初から分かってたっすよ」
悪意に満ちた米沢の笑顔が小田の心に突き刺さった
「第一、小田さんがあそこまで質の良いターボを作れるとは思えませんよ」
「てんめー、言ってくれるじゃねぇか、今月の給料覚えとけよッ」
「ひえー、すんませんしたぁ」
またいつものような日常が戻ってきていた
一台の車によって生み出された非日常、そこから解放されたのである
「それはそうとお前も疲れたろう、俺がおごってやるからラーメンでも食いに行こうや」
「今真夜中っすけど…やってる所あるんすかね?」
「安心したまえ! 俺の親友がやってる所は深夜でも大歓迎だ! ほらさっさと行くぞ!」
「うっす」
そう言って二人はブラックブルに乗り込み、再び出発した
「お前はよくやったぜ、ご苦労さん」
その一言が米沢の心に沁みた

―ちょっと! 店閉まってるじゃないっすか!


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