5  名前:氷河期@ ID:AOHOLGND  2013/09/08 17:55

第三話 『昔話』

岸本は髪をツンツンに逆立てたブラックブルのドライバーらしき男を見て何かに気付いた
「どうした岸本、アイツと知り合いか?」
「えぇ、そうですよ、高校時代の同級生ですよ!!」
「ほう…それは面白いな…」
岸本は運転席の窓を開けて叫んだ
「おぉい、大輔ェ! 米沢大輔ェ!」
―米沢 大輔、ブラックブルのドライバーで岸本の高校時代の親友だ
「あぁ、お前! 岸本じゃねぇか!」
岸本は勢い良くドアを開けて米沢の近くに行った
「いやぁ、久々だなぁ大輔、高校卒業以来か?」
岸本が笑いを浮かべながら米沢に問う
「そうだなー、いやぁそれにしても久しぶりだなぁ」
米沢も同じような笑いを浮かべてそれに答えた
すると、米沢が助手席に腰掛けている源田に気付いた
「あれ、源田さんじゃないですか、ご無沙汰してます」
「おう、米沢。今日もブラックブルの調子はすこぶる良さそうだな」
「えぇ、おかげさまで」
岸本が不思議そうな顔で二人の会話を見ていた
「社長、大輔のこと知ってるんですか?」
「あぁ、一応な。だがコイツと関わりが深いのは俺の弟子だ」
「社長に弟子なんているんですか?」
「いるぜ、俺の働いてるチューニングショップの店長が源田さんの弟子だ」
米沢が割って答えた
「その通りだ。米沢、小田は元気か?」
「えぇ、いつも通りですよ」
相変わらず岸本は状況が呑み込めないままだった
「社長、何の話をしてるのか俺よく分からないですよ」
「ん? あぁ、そういえばお前にはまだ話してなかったな」
「何かあるんですか?」
「あぁ。今、俺はこうして大企業の社長をやってるが昔はチューナーをやってたんだ」
「へぇ…社長がチューニングを…」
岸本は興味を沸かせていた。その反面、米沢は空気を読んでいるのか、静かにしていた。
「俺も昔は凄腕のチューナーって呼ばれたもんだ。チューナー仲間は俺のことを『神の手の持ち主』と呼んだよ」
「えっ? 社長はそんな凄い人だったんですか!?」
「他人からしたら凄かったんじゃねぇか? まぁ俺はチューナーとしての仕事を全うしただけだ」
「でも何でチューニング止めたんですか? 今も成功してますけど、チューニングの世界で生きていけば良かったんじゃ…」
岸本の生き生きとした明るい目とは逆に、源田は少々暗い目を岸本に向けていた
「死んじまったんだよ…俺の仕上げた車に乗ったドライバーが…」
「!?」
岸本は触れてはいけない過去に触れてしまったような気がしていた
顔に驚きが分かりやすく表れている
「足回り、ボディワーク、エンジン、全てにおいて完璧だったはずだった。だがあまりにもレベルが高すぎた
俺は本物の化物を作ってしまった気がしたよ。結局そのドライバーは一つのコーナーも曲がれずにクラッシュしてしまった」
「今、その車はどこに…」
岸本が張り詰めた表情で問う
「さぁ、知らねぇな…今頃スクラップにでもなってるんじゃねぇか?」
「下らないことを聞きますが、社長が仕上げたその車の車種は何だったんですか?」
その質問を聞いて源田の表情が少し緩んだ
源田は軽く笑って答えた
「RX-7 Type R いわゆるFD3Sってヤツだな」
「FD…そりゃ速くなりますねぇ…」
「だろう? あれほど扱いやすい車はねぇよ」
「あの…また下らないことをお聞きしますが、小田さんって人は一体…?」
再び源田は軽く笑って答えた
「小田ってのは、俺のチューナー時代の弟子だ。俺の仕上げた車を見てから俺についてくるようになってな」
「へぇ…小田さんってのは凄い人なんですか?」
「車に関する知識だけならアイツは俺に匹敵する。だがアイツは不器用だ、作業すると間違いなくミスをする。な、米沢?」
「えぇ、設計は小田さんがやって作業は俺がやってますよ」
「へぇ、大輔もチューニングするのかぁ…」
「羨ましいか?」
「いや、別に…」
「岸本、チューニングってのは良いもんだぜ、走りが好きなお前ならチューニングの良さも分かるはずだ」
「社長まで…」
「なぁ岸本、俺ともう一回走らねぇか?」
米沢が岸本に問う
「おいおい、首都高最速のお前と走っても勝てねぇだろうが」
「岸本、自分に自信を持て。お前にはセンスがある、米沢と同じくらいな」
「ですけど…」
「そうだぞ岸本。お前ああいうバトルするのは初めてだったんだろ?」
「あぁ、初めてだけど…」
「初めてであそこまで俺に食いついてくる奴はいねぇよ。源田さんの言う通り、お前にはセンスがあると思うぜ」
米沢も源田と似たようなことを岸本に向けて言った
「まぁ、そこまで言うなら…」
「よっしゃ決まりだな! ほら、さっさと行こうや」
米沢のテンションが上がっていた
それに割って入るように源田が言った
「米沢、ちょっと話がある。来てくれねぇか」
「何すか? 源田さん」
源田が車を降りて米沢を連れていった
一人残された岸本の目には自信と恐怖が半分ずつ映っていた



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