310  名前:氷河期@ ID:AOHOLGND  2013/05/08 21:28
第30話 『サークル』

(怖ぇ…100km超えた辺りでもう踏めねぇよ…)
深夜の首都高を一台の青い車が駆け抜ける
それはブルーバードではなく、ランサーエボリューションであった
それも岸本の乗っているランサーエボリューションⅩではなく、Ⅸだ
エボⅨの前には二台いる
80スープラ、RX-8の二台だ、どちらとも派手なステッカーで装飾されている
二台は軽く蛇行しながらエボⅨの前を走っている、いわゆる煽りというヤツだ
エボⅨは煽られながらもそのまま走り続けた―

「おーい、福田ァ、今夜も走ろうぜー、な?」
チャラチャラした服装の男が悪意のある笑みを浮かべながら“福田”に話しかける
「あ、あぁ、良いよ」
―福田 涼介(ふくだ りょうすけ)
とある大学の4年生。大学の走り屋サークルに所属している
愛車は中古のランサーエボリューションⅨ
「それよりも、このだっせぇランエボは何とかなんねぇのかよ? ステッカーも貼らない、純正のまま、おまけに中古なんて笑っちまうぜ」
他のサークルメンバーが車を派手に装飾しているのに対し、福田のエボⅨは何も装飾していなかった
「金がねぇんだよ…しゃあないだろ」
福田の家は他のサークルメンバーと比べると貧乏だった
このエボⅨも、福田が3年間バイトしてやっと買えた一台である
それに対し、他のメンバーはかなり裕福だった
資産家の息子、大企業の社長の息子、とにかく裕福だった
だからこそ、車に対してかなりの金額を入れられたのだろう
「あぁそうか、お前んちは貧乏だったなぁ、ハッハッハ」
「チッ…クソが…」
福田の小さな愚痴も、他のメンバーは聞き逃さなかった
「あァ!? 何か言ったか貧乏人コラ、オイ」
「いや、何も…」
「ならよろしい、おい皆、そろそろ講義始まるぜ」
リーダー格の男の一声で他のメンバーが一斉に動き出した
メンバーは意外と多く、20人程いる
うち福田を除く19人が金持ちである
福田は列の最後尾を一人むなしく歩いていた

夜のパーキングエリア、サークルのメンバーのほとんどが集まっていた
「来やがったぜ、あの貧乏人。まぁ逃げなかったのは褒めてやるがな」
メンバー全員が福田のことを嘲笑った
それを気にせず、福田は車から降りてきた
「よぅしオメェら、今日もいつものコースで頼むぜェ」
福田はそんな言葉に耳を貸さず、一心不乱に一台の車を見つめていた
ブルーのランサーエボリューションⅩ、ブルーバードだ
(かっけぇ…派手に飾っただせぇ車より、ああいう車の方がかっけぇよ。それに何かが違う、あの車は…)
「おい貧乏人! 何ボーッとしてんだ! 置いてくぞ!」
「あ、悪い悪い!」
急いで福田は車に乗り込んだ
派手な車が列になって走る後ろに、一匹の鳥の姿があった

―弱い奴は見た目だけを気にする。強い奴は見た目よりも中身を気にする


戻る