325  名前:氷河期@ ID:AOHOLGND  2013/05/19 23:32
第31話 『圧倒』

「あぁ、おっせぇなぁ…何なんすかね、前を走ってる珍走団みたいなのは」
遅い割に車線を全て占領するサークルの走り屋達に、岸本は苛立っていた
「まぁそんなにイライラすんなや、ちょっと隙が出来たら強引にぶち抜きゃ良いんだ」
「それもそうっすね」
源田が岸本を簡単に宥めた
とほぼ同時に、三つある車線のうち一車線が思い切りクリアーになった
「お、こりゃチャンスだぜ岸本」
「俺も今そう思いましたよ!」
岸本がアクセルを踏み込んだ
加速が強いブルーバードは一気に約200km/hまで速度を上げ、軽くサークルの走り屋達を抜き去った
(す、すげぇ…何だ今のは!?)
岸本の走りに福田は震えていた
「お、おい! 今のもしかして…」
「あぁ、間違いねぇ。青のランエボⅩ、ブルーバードだ!」
サークルの走り屋達も驚いていた
何せ簡単に抜き去られてしまったのだから
「おい、他の連中にも電話しろ!」
「え、運転中はマズいんじゃ…」
「何言ってんだバカ野郎、お前みたいに助手席に乗ってるのがいるじゃねぇか」
「あ、そっか」
そう言ってメンバーの一人は他のメンバーに連絡を取り始めた
絶対に逃がすな、と
「あれ、何か追いかけて来ますね、あの変な奴ら」
岸本のバックミラーには多数の光が差し込んでいた
「はっはっ、格の違いを思い知らせてやれ」
「当然ですよ」
岸本はギアを3速から4速に上げた
ここまで来ると、もうサークルの走り屋達には不可能の領域になっていた
全力で踏み込んでも離される、何をしても無駄
そんな圧倒的な力差は、サークルの走り屋達のプライドに障るだろう
「くそったれが! 追いつけねぇ!」
サークルの走り屋達が怒りを顕にする中、福田は平静を保っていた
(すげぇ、俺もあんだけ走ってみてぇ!)
福田の速さへの恐怖はすっかり無くなっていた
福田の目に映った一瞬の感動が、速さへの恐怖を打ち消したのである

翌日、サークルのメンバー達はブルーバードに抜かされたことを愚痴っていた
「あぁ、何なんだよアイツ、あんな速いとは聞いてなかったぞ」
「ったく、マジぶっ潰してぇーあのクソランエボ」
「潰す? 良いねぇ、やろうぜやろうぜ」
こんなメンバー達の低レベルな愚痴を、福田は聞き逃していた
(あぁ、あれくらい走れるようになりてぇ…)

―長きに渡る恐怖を一秒で打ち消す


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