335  名前:氷河期@ ID:AOHOLGND  2013/05/25 23:48
第33話 『解き放つ時』

「ここは…どこです?」
小さいガレージと大きなビル
そう、福田が案内されたのはGNDホイールだった
「俺の勤め先だ。此処にはな、すげぇ人がいるんだぜ」
「すごい人ですか、どんな人なんです?」
「“神の手を持つ男”とまで言われたチューナーがいるんだぞー」
それを聞いて福田は嬉しそうに拍手をした
そして二人はガレージの中へと入っていく
中で源田と米沢が共にブラックブルをいじっていた
「おう岸本。って、その大学生っぽい野郎は誰だ?」
岸本はハッとした
名前を聞いてなかったことを思い出したのだった
「えーと、そういや名前聞いてなかったな…」
それに割り込むように福田が自己紹介を始めた
「福田涼介と言います。ガレージの外に停めてあるランエボⅨを運転しています」
「あ、福田って言うのね。そういや俺も自己紹介してなかったな、俺は岸本祐弥」
「俺は米沢大輔。このR34 GT-Rを運転している」
「俺は源田。隣のデカいビルの社長だ。まぁ、趣味でチューニングをやってる」
という具合に次々と自己紹介をした
「そういやお前、エボⅨを運転してるとか言ったな、ちょっと見せてみろ」
そう言って源田は外にあるエボⅨの元へと歩いていった
「ちょい大輔、ブラックブル一回だけ外に出してくれよ」
「何でだよ」
「いや、外のエボⅨガレージに入れたいからさ、頼むぜマジで」
岸本が両手を合わせて懇願している
この態度に米沢が折れた
「分かった分かった、そのかわり今度ラーメンおごりな」
「ったく、いちいちこんなことでおごらせんなよ」
下らない馴れ合いを終えて、米沢はブラックブルをガレージの外へと出した
それに代わってエボⅨがガレージへと入っていく
この二つの動きは手短に済まされた
「ほーう、エンジンも何もかも全部純正か」
源田がボンネットを開けてエンジンルームを見渡した
福田のエボⅨは何もチューニングが施されていない状態だった
「俺、速くなりたいんです、速くなって、アイツらを見返したいんです!!」
福田の思いは一つだった
“速くなりたい”ただそれだけだった
アイツらを見返すことなんてほんのおまけでしかなかった
「おい岸本、アイツらって何だ?」
「覚えてますか社長、前湾岸線を走ってた時にうじゃうじゃ湧いてた珍走団みたいな連中、福田はそのうちの一人なんですよ」
源田はそれとなくその時のことを思い出した
「あー、派手な車が何台も走ってた時の…にしてはコイツの車は地味過ぎねぇか?」
「俺の家、貧乏なんです。そもそも貧乏なのに車持つってのも何か変ですけどね、でも俺は車が大好きだったんです」
福田は苦笑した
「車で走る為にも、俺は大学で“走り屋サークル”なるものに入りました、でもそこは俺の想像とは違う世界でした」
福田の語りに福田以外の三人が真剣に聞き入っていた
「下品な改造を施した車で暴走するだけのサークルでした。マフラーを変えて大きな音を出したり、下品なステッカー貼りつけたり、とにかく最悪でした」
「OK、OK、分かった。俺も車に対して汚いことする野郎は嫌いだ、それをぶっ潰す為なら、喜んで協力してやるよ」
源田は少々解釈の仕方を誤っている気がした
「それに…速くなりてぇんだろ? 俺はそういう奴が大好きでな」
源田の解釈は間違ってはいなかった
その快い返事に福田は深々と頭を下げた
そして、エボⅨのチューニングが始まった―

―鎖を、解く


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