351  名前:氷河期@ ID:AOHOLGND  2013/06/09 23:01
第36話 『スピンアウト』

福田が軽くアクセルを抜く、キツいコーナーに向けての減速だ
タイヤと路面との摩擦が凄まじい、甲高い騒音は福田にも岸本にも聞こえた
(くっそ、曲がれるか?)
二台がコーナーに差し掛かる
だがコーナーに差し掛かった瞬間、エボⅨのリアが思い切り滑った
「くっ、マズい!」
制御しようとハンドルを右へ左へと激しく動かす
だがリアのスピンは止まらない
「ヤバい、スピンする!」
その予想は見事に的中した
エボⅨが右へと思い切り一回転した、ブラックブルとは1cmと離れていない距離で、だ
スピンが収まった頃にはもうブラックブルはいなかった
これが実力の差と言うものだろう
「はっはっは、しゃあないしゃあない。いきなり速い車を制御しようなんて無理な話だ」
福田は放心状態だった、車の回転に耐えられなかったのだろうか
「だが今のことを糧にして、此処から更に上を目指していきゃ良いんだ」
「はーい、そーですねー」
「何だ、急なスピンにビビってロクに話も出来ねぇか。俺が運転してやるよ」
エボⅨはスムーズに動き出した

[速いんですね、あの米沢っていう人。さすが首都高最速って感じですよ」
助手席から福田が話しかける
「そりゃそうだ。5年以上ここで経験を積んでるんだ、よっぽどの奴じゃなきゃ初見で勝てねぇよ」
「そういう岸本さんはどうだったんですか?」
岸本はふと首都高を走り始めた頃を思い出した
当時首都高最速と呼ばれていたブラックブルを突き放したときのことを
「俺は…勝ったよ」
「えっ、マジですか? それなら岸本さんが首都高最速なんじゃ…」
「違うな。バトルには勝ったけど勝負には勝った気がしてねぇんだ、それ以降も何回かバトルした。でも負けた」
岸本は村田、ブラックブルとバトルした時のことを思い出した
エンジンブローを起こしたあの夜のことだ
「俺はセンスがあるって言われたよ、だけど分かった。センスだけじゃこの世界では勝てねぇんだ。」
「つまりどういう意味ですか?」
「努力しろ、ってことだ。今日負けた、だけどまた次回勝てるように此処を何回も走れば良い、そして自分に合うマシンを作り上げれば良い」
福田は頷いていた
その時、彼の心の中である決意が生まれた
「岸本さん、明日俺と走ってもらえますか?」
「へっ、当然だ」

―努力という名の種を蒔く


戻る