8  名前:氷河期@ ID:AOHOLGND  2013/09/08 18:02

第4話 『モチベーション』

岸本がぼーっとしていると源田と米沢が戻ってきた
「悪い、待たせたな。さぁ行こうぜ」
そう言って源田が車に乗り込む
「あ、いえ。じゃ、行きますか」
岸本は隣に停まっているブラックブルに向かってグッドサインを出した
それに反応して米沢もグッドサインを出してきた
二台の車が今、首都高という大きなステージに出発した

先行しているのはブラックブル
エボⅩは後ろについているがそこまでの差は開いていない
「やはり速いですね、米沢は…」
岸本が不意に助手席の源田に話しかける
「ふっ、そうだな。だがお前も中々じゃねぇか、さっきよりも幾分か速くなってる気がするぜ」
「そうですか?」
疑問に思っていた岸本はブラックブルのテールランプが徐々に近づいてきていることに気付く
「見てみろよ、ブラックブルのテールランプが徐々に近づいてるぜ」
「あ、本当だ…」
「少しは自分に自信を持てよ。お前のポテンシャルの高さは並じゃねぇぜ」
「…」
岸本は黙り込んでしまった。おそらく運転に集中しているのだろう
助手席に腰掛けている源田は先ほどの米沢との会話を思い出していた

―「何ですか源田さん、話ってのは」
「お前この後また岸本と走るんだろう?」
「え、まぁそうですけど…」
「なら負けてやってくれねぇか? アイツに自信を持たせたいんだよ」
源田のとんでもない依頼に、米沢は唖然とした
「…」
黙り込んでいる米沢に源田が追い討ちをかける
「頼むぜ米沢、アイツはそこらの輩とは一味違うんだ、そんな逸材を此処で捨てるわけにはいくまい」
「…分かりました、源田さんが言うんですからアイツにはきっと何かあるんでしょう」
「助かるぜ米沢、お前もアイツの力を見てみたいだろう?」
「えぇ、そりゃ気になりますよ。アイツがどれほどのレベルにまで成長するか、楽しみです」
「じゃ、行くか米沢」

源田が気付いた時にはブラックブルとエボⅩが並んでいた
「岸本…お前やるじゃねぇか やっぱセンスあるぜお前」
源田のその一言にはあまり感情がこもっていなかった
岸本は一言も喋らない
―!?
源田が左側に並んでいるブラックブルに目を向けた瞬間驚愕した
米沢の目が本気だったのである、手加減なんて一切ない、そんな目をしていた
(米沢の野郎…手を抜けって言ったのに…)
源田が軽く笑いをこぼす
そして再び岸本に向けて言った
「岸本…お前マジでセンスあるぜ、マシンの性能とかじゃねぇ、お前自身のセンスだ」
「俺、横にいますよ… 首都高最速の大輔の横に…」
岸本の体は軽く震えていた
「でも怖いんですよ… この速さ、そしてこの自分の実力」
「ふっ、そろそろ自覚してきたか。いくらストレートの多い横羽とは言え、一つでもラインが狂うと一気に離されるからな」
二台はやや大きく、長い右コーナーに差し掛かろうとしていた
すると岸本は一瞬だけブレーキを踏み、ギアを5速から4速に下ろしてハンドルを右に切り始めた
「岸本、すげぇインベタだな。ド素人がここまでやるとは正直思わなかったぜ」
エボⅩは壁ギリギリのラインを走っていた。おそらくミラーと壁との距離は5cmも無いだろう
「この車のクセが何となく分かった気がするんですよ。だからこそこの車のクセを最大限に生かせる運転をする。ただそれだけです」
岸本は4WDの立ち上がりのクセを一瞬で理解していた
対して源田は岸本の華麗なライン取りのテクニックに唖然としている
「岸本、お前はマジの化物だな。さすがの俺もこれには驚いたぜ」
コーナーを抜けるとエボⅩがブラックブルの前に出ていた
(岸本…ついつい本気を出しちまったが、まさか追い越されるとはな。マジでお前の才能にはビビるぜ)
ハンドルを握りながら米沢はそう思っていた
負けを悟った米沢は静かにアクセルから足を離した


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