13  名前:氷河期@ ID:AOHOLGND  2013/09/08 18:24

第7話 『アウトインアウト』

「良いか岸本、どんなにセンスがあろうとコースに慣れていなければそれを存分に活かすことは出来ない」
「なるほど、でも俺結構詳しいですよ」
「ほう、それは期待できるな」
岸本と源田は目の前にあるブルーバードへと乗り込んだ
クラッチペダルを踏み、キーを回すとマフラーから低い音が響いた
「フッ、エンジンは絶好調のようだな」
源田は澄ました顔で言った
そして怪鳥は羽ばたき始めた
「社長、今日はどこを走るんです?」
岸本がシフトノブを握りながら問う
「首都高速都心環状線、C1だ」
「分かりました、どこから入ります?」
「とりあえず芝浦まで向かってくれ、此処から一番近いしC1にもすぐ入れる」
「了解です」
そう答えると岸本はアクセルをやや強く踏んだ

「ぼっちゃま、いかがでしょうか? このZ32の乗り心地は」
「うーん、ベンツとかと比べるとあんまり良くないなー」
村田はしかめた面をしていた
「ぼっちゃま、ご覧下さい。レインボーブリッジですよ」
じいやがハンドル片手にレインボーブリッジを指差す
「おー、やっぱ綺麗だなーレインボーブリッジはー」
村田の表情がコロリと変わっていた
「ぼっちゃま、此処からC1に入ります。カーブが多いのでお気をつけ…」
じいやの口が止まった
「ぼっちゃま、しっかりお掴まり下さい」
後ろからもの凄い速さで光が迫っているのにじいやは気付いた
同時にじいやがやや険しい表情になった
「え? 何だよじいや、急に」
村田は何が起こっているのか分かっていないようだった
「此処から飛ばしていきますよ…」
「え? ちょっと待ってくれよ! 何なんだよ本当に!」
村田が怒鳴り始めた。狭い車内に大きな声がよく響いている
「来たんですよ…青い鳥…いや、ブルーバードと言ったところでしょうか」
「はぁ? 何だよブルーバードって、意味分からねぇよ」
村田がまたイライラし始めていた
「首都高で1、2を争う走り屋ですよ。先ほど言った青い車とはその車のことです」
じいやがそう言った瞬間、Z32の左を凄い速さでブルーバードが通過した
もの凄い速さで駆けていく鳥の姿に村田は衝撃を受けた
「は、速ぇ…」
さっきまで怒鳴り散らしていた村田はすっかり腰を抜かして青ざめていた
「さ、追いますぞ。ぼっちゃましっかり掴まっていてくださいね」
じいやはいつもと違う本気の顔をしていた
村田はおとなしく忠告に従い、窓の上の手すりを力強く握り締めた
「いやはや、この長い間エンジンをいじり続けた甲斐がありました。加速の伸びが非常に良いです」
村田がメーターを見つめると、すでに200km/hを超えていることに気付いた
「お、おい、じいや、そんな飛ばして大丈夫かよ…」
村田は軽く震えていた
「大丈夫ですよぼっちゃま。このじいやにお任せ下さい」
村田とは対称的に、じいやは平静を保っていた
やはりスピードに慣れているからだろうか
徐々にブルーバードのテールランプが近付いてきた

「おい岸本、後ろにそれっぽい車がいるぞ」
源田はバックミラーを指差して言った
「本当ですね、大輔でしょうか?」
「いや、あのヘッドライトの形はブラックブルじゃねぇ」
「じゃあ誰なんでしょうね、あれ。しかも追い上げてきてますよ…」
岸本は額に汗をかいていた
「おい、並ぶぞ」
源田がそう言った瞬間、白い車体がブルーバードの横に並んだ
「これは…Z32!」
源田が車種を言い当てる
「Z32? フェアレディZ 300ZXのことですか?」
岸本が前を見つめながら問う
「ハッハッハ、詳しいじゃねぇか。その通りだ」
気付くと2台はC1に入っていた
「C1はコーナーが多い、インベタは重視せずアウトインアウトを意識して走れ」
源田が岸本に忠告をする
「アウトインアウト? 何ですかそれ」
コースには詳しいものの、基礎的なテクニックにはまだ明るくなかった
それに加え、受け答えが出来るほどの余裕も出来ていた
「アウトインアウトってのは、壁ギリギリのアウトから入って壁ギリギリのインで曲がり壁ギリギリのアウトに出ることだ」
「それなら減速してインベタでも良いのでは?」
「インベタは減速が大きい、いくらコイツが4WDだからといってアウトインアウトの曲がり方をする車には劣る」
岸本はよく分からなかった
「よく意味がわからないですよ、社長」
「フッ、まぁ無理も無い。とりあえずアウトインアウトだと直線に近いラインで走ることが出来る、それだけだ」
噂をしているとコーナーが近付いてきた
「おい、早速左コーナーだぜ、実践してみろ」
源田がそう言うと岸本は車を壁ギリギリの右に寄せ、そして車を壁ギリギリの左に寄せコーナーを脱出した
「出来た…」
岸本は少し唖然としていた
「ふっ、どうだ速く走れた気がしたか?」
「えぇ…何となく、速く走れた気がします」


推奨BGM(YouTubeにとびます)
Maximum Acceleration


戻る