104  名前:氷河期@ ID:HLHNONE  2013/02/23 00:22

第8話 『一閃』

「おぉ…」
岸本の綺麗なラインの取り方に思わずじいやは声をこぼした
村田も岸本の走りに唖然としてた
「す…すげぇ…」
村田が思わず呟く
ブルーバードを見つめる村田の目は一際輝いていた
まるで、惹かれるかのように
「ぼっちゃま、いかがでしょうか。退屈な日々はこの速さが変えてくれるとは思いませんか?」
じいやが村田に目を向ける
いつもの温厚な眼差しとは違って、やや真剣な眼差しをしていた
「お、おう…コイツは刺激的で面白そうだ」
「ぼっちゃまに走りの素晴らしさを分かってもらえるとは感激ですぞ」
じいやは目に涙を溜めていた
「何か…惹かれていくんだよ、あの青い車の走りに。この速さが怖いってのは分かる、でも、それでも!」
村田の目はいつになく真剣な眼差しになっていた
「俺はあの青い車を追いたい」
村田が全てを言い切った
ブルーバードには何か魅力がある、恐怖を興奮へと変える
それぐらいの素晴らしさが、ブルーバード、そして岸本にはあった
「ぼっちゃま…」
じいやは涙をこぼしていた
「お、おい、泣くなって!」
「いやはや、失礼しました。先程も言いましたがぼっちゃまがこの走りの世界に足を踏み入れて下さるというのが嬉しくて嬉しくて」
「ほんと、すげぇよ…あの車、俺もあれぐらいに走らせてみたいものだ」

「こんぐらいコーナー抜けた辺りで橋脚がある。ぜってぇぶつけるんじゃねぇぞ」
「橋脚? 何ですかそれ」
「そのままだ。簡単に言うなら壁を境に道が二つに分かれてるってことだ」
「なるほど」
岸本が納得すると同時に橋脚が迫っていることに気付く
「ほら、アレだよ、ぶつけんじゃねぇぞ」
源田が指を差して言い放った
ここで岸本が深く考え込んだ
(ここでアクセル全開だと上下する道で間違いなく体制を崩す。どうするべきか…)
そう考えている時間もなく、あと数メートルで道が分かれるところまで来てしまっていた
だがここで岸本は閃いた
(そうだ! 一瞬だけブレーキを踏めば良いんだ! そうすることで地面との接地感が強くなるはず!)
橋脚手前、道が上下するポイントで岸本は一瞬だけブレーキを踏んだ
テールランプが一瞬だけ光った
その一瞬の光は、村田の目にも、じいやの目にも強く映えた
「分かってるじゃねぇか岸本、今お前がやったのはブレーキフラッシュっていう一種の技だ」
「ブレーキフラッシュ?」
いつもと同じように岸本が疑問の目を源田に向けてた
「ブレーキを一瞬だけ踏むことだ。お前がやったことだよ」
「あれ、俺そんなことしましたっけ…?」
岸本はとぼけた顔をしていたが、無意識のうちにこの技を完了させていたようだ
「お前…まさか無意識に踏んだのか?」
「いやいや、分からないですよ」
「って、そういやもう一つ橋脚あるんだよな、今度は道の上下が無い、車の操作さえ安定させていれば余裕のはずだ」
「はい」
岸本が軽くうなずいた
ブルーバードは綺麗に橋脚の左側を抜けた


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