14  名前:※びーふあすとろがのふは副菜です ID:POHCLEJF  2013/05/10 20:22
「ねぇ、『宝玉』って知ってる?」

「あ゙?」

とある町、セイソスの北側に位置する公園のベンチ。
そこに少年、レイは深く、心地よい眠りについていた。
のだが、そんな至福の一時は、彼の幼馴染みの、
黒髪の活発そうな少女によって、儚くも崩れ去った。

「なんだよぉ、リン。人が気持ちよく眠ってんのが分からないのか?」

「子供は元気に遊ぶ時間でしょうが!
こんな時間に昼寝なんてしてるのが悪いんでしょっ!」

その彼女、リンにそう言われると、
レイはめんどくさそうに体を起こした。

「で、宝玉って何?」
レイはベンチから降りると、
欠伸を噛み殺しながらリンに聞く。
宝玉なんて今まで聞いたこともない単語だったので、
内心、レイも興味を持っているのだ。

「よくぞ聞いてくれました!
昨日、私が家の本棚から本を取ろうとしたら、
なんと! すごいことが載ってそうな本を見つけたの!」
「要するに偶然落ちてきたんだな。
お前、背が低いから無理に取ろうとしてバランス崩したんだろ」
「あぅ……、そ、そんなことより、これがその本なの!」

リンが差し出した一冊の本を、レイはまじまじと見つめる。
表紙には、『宝玉と竜神の伝説』と書かれていた。

「紙は羊皮紙。ところどころ黄ばんでるし、
破れてるところも多いからかなり古いな」

「さすがレイ! と言いたいところだけど、
そんなことより大事なことがあるの」

本をパラパラと捲り、
リンが示したページの内容を、レイは一通り読み上げた。

「『世界の各地に、竜神を封じ込めし、
それぞれ、炎、水、雷、光、闇の力を持つ宝玉あり。
その五つを集めし勇気ある戦士は、
封印されし竜神の姿をその目に刻むこととなるだろう。
そして戦士は竜神の加護を受け、全てを統べる力を得るであろう』…………。
こんなのただの伝説だろ?」

「どうだろうねぇ」

得意気にそう言いながら、リンは懐を探る。
そして、そこから出てきた一枚の紙に、レイは目を見開いた。

「それは……地図?」
「そう、その本に挟まっていたの。
これは宝玉の場所を示した地図みたい。
その一つの場所が………」

「?………あっ!」

リンが指す、宝玉の一つの場所。
それは、このセイソスからすぐ北に位置する。
濃い霧のせいで誰も近づかないと言われる、
深き幻影の森、を指していた。


59  名前:ぺいんがる ID:NCHBLJM  2013/05/10 21:55
「はあ?お前、そんな迷信信じてるの?バカかお前?大体、そんなレアなもんが仮にあったとしても、御偉いさんがみーんな取っちゃったに決まってんだろ」
そう言って、知り合いのディオスはレイの意見をのっけからからかうように嘲笑した。
「そんなの、やってみなきゃ分からないじゃん!」
「たぁーうるせえうるせえ......大体な、いまのご時世、お前らが言っているような有名なお宝はぜーんぶ名の売れた探険隊に取られちゃったに決まってんじゃんお前のちーさいおつむじゃ理解できないかい?」
「......!もうだいっきらい!」
リンは憤りの余りそっぽを向いた。ディオスは尚も人を嘲るような微笑を浮かべながら「悄気てやがんの」と煽った。ディオスの言動を見かねたレイは注意を促した。
「リンは何もからかわれに来たんじゃない。お前を探険隊に入れたいと思ったから来た んだ。少しは気持ちをくんであげてくれよ」
「あーあーお前はいっつもそうだ。てめえの都合ばかりで全部決めやがる。俺は団体行動がだいっきらいなの。解るだろ。それに」
少し声を縮めて、問いただすように囁いた。
「どうせ、俺のことなんて嫌いなんだろ。俺聞いたんだぜ。お前が俺の愚痴を捏ねてたの」
ディオスは椅子を蹴っ飛ばした。繁盛していた酒場が一気に静まり返る。
レイは何も言えなかった。弁解をしようと思案したが、ここで戯れ言を述べたら一生後悔するだろうと思った。
やはり、と分かりきっていたような結びの後、毒を塗った舌で、呟いた。
「図星かよ。ケッ、やっぱりお前なんて信じなきゃよかったんだ。全く、居るだけ邪魔な瘤と関係を持っちまったもんだ」


73  名前:藍色(彼はゲマスレ一の模範少年だ) ID:OBNLFDBB  2013/05/10 22:23
「あーもー苛つく! なんなのよディオスの奴!」
 ぼうっと放心状態にあるレイに気付かず、リンはただディオスへの怒りをぶつける。
 小さな彼女が頬を染めて怒っている様子は端から見れば愛らしいものだ。
 終いには、腰に手を当てるリンを眺めて口元を弛める者までいる始末。
 次第に酒場は独特の陽気な雰囲気を取り戻し、また騒がしくなる。
 だが、レイからしてみればそう笑える話でもない。
 ディオスとは、多少の意見の食い違いはあれど仲の良い友人だったと思う。
 間違いなく親友と言えるだろう。悪口のことだって酒場の空気に当てられて――。
 そこまで考えたところで、レイは思考の海から引きずりあげられた。
「ねぇ! 聞いてる!?」
「え、あぁ、聞いてなかった」
「だーかーらー。もう私たちだけで行きましょうってこと」
 腹立たしげに捲し立てるリンに、レイは思わず後ずさりする。
 二人での行動。それだけで探検隊を組んだ場合、かなりの危険が伴う。三人や四人なら防げた出来事が二人なら対処できなかった、なんてのはよくある話だ。
 リンもそのことは考慮した上だったが、他に頼れる人間などいない。
「頼れる人間……あっ」
 頭の中に浮かんだのはある人物の顔と名前。奴ならば、きっと協力してくれるはずだ、とレイは指を鳴らす。
「リン、あいつに会いに行こう」
「あいつって、まさかあいつ? 嘘でしょ?」
 あからさまに嫌悪感を表すリンに苦笑を見せ、二人はある人物の下へと向かうのだった。


118  名前:ぺいんがる ID:LDJMCKNN  2013/05/10 23:42
「んで、僕を頼るわけか」
 閑静とした家の中、レイとその友人であるジェダという男が会話している。
「ああ。すまない、いきなり押しかけて、こんな無茶なお願いをして」
「いいんだよ。むしろ、友達が困っているのだから助けてあげるのは当然のことだろう」
「ありがとう。すまない」
 二人は強く握手を交わす。ジェダはニッコリと広角を上げていたが、レイは何処かぎこちない作り笑顔だった。
 ジェダの笑顔が硬化すした。
「どうかしたの?またあいつと喧嘩?」
「……」
「……」
 沈黙。聞いてはいけないことを訪ねてしまったのあろう。アホ毛の立つ頭を掻きながら、今度はジェダがぎこちない笑顔で無理に広角を上げた。
「行こうか」
「……ああ」
片言隻語の会話で、二人はジェダの家を去った。



「それで、私を頼るわけね」
 場所はある宿屋の一室に移る。こちらでは、リンとその親友のシャルロットが会話、否、談笑をしていた。
「いいわよ。あなたのお願いなら聞いてあげる」
「いいの?ありがとう!助かったわ!」
 思わず、互いに手を握り合う。柔かな笑みだ。
「それにしても、ホントあいつツレナイわよねー。せっかくお願いしてあげたのに」
「ああ、あの方ですね」
「そうそう、ホントにウザイ。なんであんな奴、同行させようと思ったんだろう」
「もう、止めません?」
「そうね」
 二人は陽気に部屋を去った。


122  名前:※びーふあすとろがのふは副菜です ID:POHCLEJF  2013/05/11 00:09
「で、この四人が集まったわけね」
セイソスの広場に、
レイ、リン、ジェダ、シャルロットの四人が集まっていた。
「まぁ、この面子なら大丈夫じゃないか?
シャルロットは確かに強いし」
どうやらレイも納得の様子。
シャルロットも少し満足げな表情を浮かべる。

「じゃあ、各々準備は終えてあるよね。
行きましょう! 深き幻影の森へ!」
リンを先頭に、彼等は町の北側の門へと向かっていった。

□■□■□■□

「はッ!!」
シャルロットの持つレイピアによる突きが、
緑色のぐにょぐにょした魔物、通称スライムに直撃する。
スライムに大きな穴が開くが、他の部分が結合して、すぐに塞がってしまう。
「やっぱり突きじゃ無理……レイ!」
「分かってる……!
炎の精霊よ、我の願いに耳を傾けろ!!『ファイアー』!!」

シャルロットの後ろからレイが飛び出し、
呪文を唱えると、レイ手のひらの前に火球が作り出され、スライムを燃え散らした。

「まぁ、ざっとこんなもんかな」
光の粒子となって消えていくスライムを見て、
レイは満面のドヤ顔を決めた。

セイソスから北に進むと、広い草原、通称、北の草原がある。
深き幻影の森に行くためには、
必ずしもそこを通らなければいけないが、勿論安全ではない。
スライムやゴブリンなんかが彷徨く、
気を抜けば命を落とす、なんてことも有り得るのだ。
しかし、前衛で攻撃するリンとシャルロット、
そして、呪文を唱えて援護するレイ。
彼等は、この攻撃主体のパーティで、
相手が攻撃してくる前に倒す、という作戦をとっていた。
しかし、ジェダはと言うと、
「あわわわ……魔物恐いよ……」
一人、木の影でガタガタ震えているのだった。
「もう……スライムはレイが倒してくれたから早く来てよ!」

そんなこんなで彼等は、もう深き幻影の森のすぐ目の前まで来ていた。


125  名前:水瓶(おにゃのこ) ID:KPAGOPIG  2013/05/11 10:25
「ここが『深き幻影の森』…ねぇ。実際来てみるとやっぱ迫力があるわね」
「なんだ? リンが珍しく怖気づいてるなんて。こんな日には『ギガンテス』みたいな大型モンスターでも出てきそうだな」
「やっ、やめろっ! マジで出てきたらどうするんだよ!」
 レイは冗談のつもりで言ったのだが、ジェダはこういうことをすぐ本気に捉えるくらいのものすごいビビりだった。
 そんなジェダにいつも和ませてもらってる。

「ほら、さっさと行こうよ。ただでさえ暗いのに早くしないと真っ暗になっちゃうし」
 シャルロットの一声で皆の顔が険しくなる。
 
 よし、とリンは呟き、手を前に差し出す。
 それを見た他三人も手の上に重ねるように差し出す。
「絶対…宝玉を見つけだすぞぉー!!」
「おぉぉー!!!」


 4人は改めてリンを先頭に森の中へ入る。


134  名前:ビーフアストロガノフ集団食中毒事件 ID:POHCLEJF  2013/05/11 19:49
深き幻影の森。
セイソスの北東にある森の通称である。
普段は、穏やかな景色が広がり、
魔物もほとんど生息していない普通の森なのだが、
北側へ進むとそれは一変する。
日夜深い霧が、辺り一面を覆っていてなおかつ、
危険な魔物も多々生息しているため、
近付く物はほとんど居ないのである。

そして、
「暗いよぅ……恐いよぅ……」
「もう! いつまでビビッてるのよ!?」
木々が生い茂り、日の光を遮るため、
ジェダはやっぱりビクビクしてしまうのである。

「霧が濃くなって来たな。シャルロットは周辺の警戒を頼む」
「了解」
リンが持ってきた本を頼りに、道を進んでいく。

その本には、
『正しき道を行かぬ者は、幻影により進行を阻まれる。
正しき道は、木々達が教えてくれる』
と書かれていた。
レイには、これが重要な鍵になると読んだが、
さっぱり理解できずにいた。
「リン、この文の意味、分かるか?」
「レイに分からないことが私に分かる訳ないでしょ?」
それもそうか、とレイは肩を竦める。

さらに奥へ進むと、分かれ道が待っていた。
「……どっちだ?」
ここでどちらに進むかはかなり重要だ。
一歩間違えば、迷って出られなくなることも有り得る。
「どっちでも良いんじゃない?」
リンはそう言うが、適当はさすがにマズイだろうと、
レイは苦笑いを浮かべた。
「うー……ん」
辺りを一通り見渡す。

「ん?」
どことなく、右は木の枝が道を塞ぐように伸びているように見える。
「なるほど……」
先程の本の一節。
『正しき道は、木々達が教えてくれる。』
「左だ、左へ行こう」
木々が道を塞ぐように枝を伸ばす。
つまり、此方に進むと危険だと木々が警告しているのだ。
原理はよくわからないが、深く考えたら負けだろう。
レイ達は、さらに先へ進む。
するの、またもや分かれ道だった。

「ん……? おかしいな」
「どうしたの?」

レイには、この分かれ道が、
先程通った分かれ道と同じ風景に見えた。

「いつの間にか戻ってきていた?
いや、さっきのは正しい道だった筈じゃ………」
独り言を呟きながら、レイは考え込む。

「魔物居ない? 大丈夫だよね?」
「だからさっきから言ってるでしょ!?
もう、行く時は自分に任せろって言ってたのに」
「だって恐いんだよぉ……。
あの木のその木もこっちに来るなって言ってるようでさ……」

まだビビッていたジェダと、リンの会話が耳に入る。
レイは、今日何度目かの苦笑を浮かべた。
その時、レイの中で何かが繋がった。

「あっ……分かった! 分かったぞ……!」


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